第3話

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第3話

  今夜の『アリア』はヒマなのだという。それもそうだ。今日は、月曜日。  『アリア』は区分で言えばピアノバー。広い店内にはカウンターとテーブル席がいくつか。テーブル席の真ん中は少し高くなっていて、大きなグランドピアノが置いてある。  今もピアノから、自動演奏で素敵な曲が流れている。題名は知らないけど、クラシック。赤と黒で統一された、素敵な店内。 「……にしても、カノンちゃん、何で死のうなんて思ったの。可愛らしい顔して、悩みなんかなさそうに見えるけど?」  カウンターの中で、マスターは小鍋を火にかけながら私に訊く。  このマスターも目を見張るぐらいの男前で、私はまたもや息を飲んでしまった。かつらを被らない『シロ』も人間じゃないみたいに綺麗だったけど、このマスターは違う種類の男前。  日に焼けた色黒の肌に、濃い顔立ち。身長は『シロ』と同じくらい高くて、でもがっちりした体格で胸板がとても厚い。年齢は、三十代半ばだろうか。  少し考えてから、私はマスターの質問に答える。私が死のうとした、理由……。 「……見た目が、邪魔になることもあるんです。私、別に可愛くなんて生まれたくなかった」  これは、本音。嫌味っぽくとられてしまうかも知れないけど。  お母さんにそっくりのこの顔が、私をいつも孤立させる。無意味にモテる。スカウトが寄って来る。女の子達に嫌われる。  私にもっと柔軟性があればいいんだろう。でも私は、頑なな人間。自分がしたくないことはしたくないし、いいと思えないものを褒めることは出来ない。  だから私は周囲に疎まれ、かと思えばちやほやと持ち上げられ、身の置き場を失った。最近は東軍も西軍も勢いを増していて、私は教科書を丸ごと無くしたり、バージンを失ったりした。もう、疲れた。私には、守ってくれるような親もいない。 「ははあ……。どっかで聞いたような話だな。非凡なだけで人は排除する。確かにカノンちゃんは綺麗だからねえ。だからわざと、ショートヘアにしてるの?」  マスターは小鍋の中身をマグにうつす。甘い香り。それに傍らのブランデーをちょっと足して。
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