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「…誰だ?」
こんな時間に訪ねて来る人はいない。
俺は恐る恐る近づいた。
人影は玄関の扉に背を預け、座って俯いていた。
近付くにつれ、強いアルコールの匂いが漂ってくる。
「酔っ払いかよ」
面倒だ。
最悪、救急車でも呼ぶか。
顔をしかめながら近づいた俺は、だが人物の姿をはっきりと眼に映した瞬間、思わず立ち止まった。
色素の薄い茶色の髪、長く伸びた手足。
そして…瞼を閉じたその顔には、見覚えがあった。
「…宮下みやした櫂都かいと、さん」
呟くような俺の声が聞こえたのか、彼の瞼がピクッと動いた。
そしてゆっくりと眼を開き、こちらを見る。
「あっ…」
心臓が鼓動を早くする。
―逃げたい。
そう思ってしまう。
俺はこの人から、逃げなければならない。
じゃないとまたっ…!
「…久しぶりだね。空耶くうやくん」
八年ぶりに聞く彼の穏やかな声に、ドクンッと心臓が高鳴った。
「どっ…してここに?」
「うん。ちょっと飲み過ぎちゃって」
そう言って上げた右手には、ウイスキーの瓶が握られていた。
ほとんど飲み尽くしたのか、軽い水音しか鳴らなかった。
「…飲み過ぎて、何で俺の所に来るんですか?」
声に険が滲んでしまう。
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