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「はあ…。分かりました。来週は有給を取って、あなたの家に引っ越します」 「本当に良いの?」 「ええ」  俺はにっこり笑った。  兄貴のヤツを、仕事に追い込みたいという下心があった。  俺が会社を休む時、仕事は兄貴に回る。  今は仕事が忙しい時期、苦労するといい。  バカ兄貴。 「良かった。あっ、僕は職場変わるから、来週はちょっとバタバタするね」 「あっ、やっぱり辞めさせられたんですか?」  病院の医院長の娘との婚約がダメになったのだ。  どんな理由であれ、彼も居辛いだろう。 「いや、自分で辞めたんだ。今のところ、あんまり良くなかったしね。他の病院の知り合いに声をかけられたこともあって、移動することにしたんだ。今度の職場は、空耶くんの会社から近いんだよ」  …相変わらず世渡り上手な人だ。 「早速明日にでもウチにおいでよ。下見も兼ねて、泊まりに来るといい」 「そう、ですね」  そして自分のペースに巻き込む人。  ―それでも良い。  彼が心から幸せそうに笑うから、俺はそう思ってしまう。  惚れた弱みというのは、結構苦労するかもしれない。 「ヤバイ、マズイ。マズイ、ヤバイ」  呪文のようにブツブツ呟きながら、足早に歩く。  腕時計を見ると、すでに約束の帰宅の時刻から三十分が経過している。     
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