第1章 私の居場所

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まだ少し肌寒い、桜が蕾の頃、私は新社会人になった。 小柄で童顔の私にはおせいじにも似合っているとは言えない、黒いスーツにパリパリのシャキッとした襟元のブラウス、少し背伸びしたパンプス。 全てが真新しい装いで、福祉専門の高校を卒業した私は、社会福祉法人虹労会へ入社した。 宇都宮うた 18歳。 私の職業は介護士。 福祉専門の高校に通い、卒業前の国家試験で介護福祉士の資格をとった。 私は、実家の城崎からはほど遠い神戸の施設で働く事にした。 18年間生まれ育った城崎から離れたのは、義父と離れたかったから。 母は、私と双子の兄であるおとを連れて、義父と再婚した。義父が嫌いなわけではない。しかし、義父に何かと気を使う母はあまり好きではない。 幼い頃離れた本当の父の事は、いい思い出しかなく大好きだ。だけど、母は父の事が大嫌いだったんだろう。いい話を聞いた事はない。そこは、当人同士でしか知り得ない所ではあるので恨んだりはしないが、とにかく一刻も早く義父と母の暮らす城崎の実家から飛び出したかったのだ。 そして、高校を卒業し、就職という円満な形で実家を出る事が出来た。 職場から歩いて15分の所に、おばあちゃんの家の匂いがしそうな古くて可愛い青い屋根の平屋の一戸建てがある。 会社の寮だ。虹色荘。地方からきた職員に用意された部屋。六畳一間だけど、小さな青いタイル張りの炊事場がお気に入りではある。お風呂は共同。トイレも共同。だけど、お風呂もトイレもちゃんとリフォームされてて快適。 私には贅沢すぎる新居だ。私だけの居場所ができた。 iPhoneから送信
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