明日へ。

12/12
684人が本棚に入れています
本棚に追加
/348ページ
「このうちから引っ越さないよ?大丈夫。部屋割を変えるだけ。休みのうちにね。 駿はこれから大学忙しくなるし、一部屋、お互いの勉強部屋として真ん中で仕切ってね、カーテン付ける。」 「天井に突っ張り棒で布をたらすだけです。」 駿が付けたして話す。 「私の部屋をそのまま寝室にして、ベッドまとめて入れちゃって、洋服も全部そこに放り込む。」 「お互い服は少ないので、多少ははみ出しますが、寝る部屋なので何とか・・。」 「パソコンとか、資料がね?二人とも多いから本は大変。移動するだけでも時間かかる。」 「忙しくなる前に、生活を整えます。」 駿は平然と言い、食事を続ける。 「まぁ、結婚は許可した訳だしな?だけど、駿君に経済力はまだない。 学生で父親はきついと思う・・精神的にも経済的にもな。周りの目も、就職にもだ。 駿君のために、卒業まで待てないか?」 「結婚して別々の個室っていうのも変でしょ?本当に二人とも忙しいからね?子供はまだ、出来るかどうかも分からないし、だから、考えてもしょうがないかなって・・結論になった。」 (何があるか、どうなるかは分からないか・・。) 「人生は先が分からない分、楽しみがある。二人で協力して相談して生きて行けばいい。俺は、兄貴の代わりに見ている、だから幸せになれ。この家で・・。」 「はい。」 ゆずるは素直に返事をした。 1年後、懸念した事は事実になり、ゆずるは夕食時に平然と妊娠を発表する。 あんぐりして言葉も出ない陽介に対し、美由紀は大喜びで祝福する。 「しゅ、駿君は・・大丈夫か?大学生で・・父親で・・・。」 「大丈夫です。結婚した時点で、随分、言われてますし。他人が何を言おうが構いません。」 「そうか・・ゆずるの子か。そうか・・・。」 呟いて陽介は目に手を当てて涙を抑えた。 兄の幸せを全部、独り占めした気分になり、喜びと申し訳なさが溢れていた。 「全部、過去の事だよね・・叔父さん?未来を生きようね。あの絶望の日を忘れずに、明るく生きて行こうね?」 ゆずるの言葉が胸に染みた。 暗い、地獄の様なあの日を憶えている。 取り戻せない幸せをゆずるも良く分かっている。 だから、今の幸せを大事にする・・この家は、明日に向かっている。 ゆずるの手は今も何かを映す・・それを一言も口にはしない。 強く、笑いながら、ただ明日をゆずるは見ていた。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!