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「ゆずる!そんなとこで着替えるな!」
思わず鞄で顔を隠す。
「そのまま後ろ向いてればいいじゃん?別にまっぱになったわけでもないし、下着は着てる。水着と布の大きさは変わらないでしょ?」
平然と答える。
「そういう事じゃないだろ?年頃の娘が、堂々と。」
「この部屋のどこでコソコソと着がえろというの?もう、終わったよ。」
呆れた様に言われて部屋を見渡す。
6畳の和室、台所3畳…押入れは布団と二人の服でいっぱい。
残りの半分、上段はゆずるがパソコンスペースにしてしまった。
まさか押入れにパソコンが?という事らしい。寝袋もそこだ。
反対側2畳分は既に段ボール棚で埋まっている。
「ゆずるが卒業する頃には、引っ越そう…うん、せめて2部屋。」
心の底から呟いた。
「僕は別にここで良いけど? 先、出るからね?」
バサバサの短い髪、右耳に太めの丸い輪っかピアス、黒ジーンズに黒いTシャツ、長袖の薄い青チェックシャツを羽織り、黒い小さな財布をジーンズのポケットに入れて、シュウは家を出て行く。
「おい!金、あるのか?」
玄関に向け声を上げる。
「大丈夫ー。まったねぇー。」
という、声が聞こえた。
(誰かが聞いていても良いように、またね、か。)
そう思うと苦笑する。
女の子だったり、男の子だったり出入りが分からないと不思議に思われるから、男の姿をした時は、またねと言うんだろうな。
ゆずるの警戒心は本当に凄い。
それが5歳の、あの経験から来ていると思うと、悲しくもなった。
とりあえず、叔父さん紹介の喫茶店に来た。
一人だし、カウンターに座る。
そんなに大きな店ではない。
いっぱい入って20人てとこだろうか?
「ご注文は?」
「えーと、コーヒー苦手なんですけど、コーラあります?」
「もちろんです。」
「じゃあ、コーラで。暑くって。」
明らかにコーヒーを専門として味に自信がある店だと一目で分かった。
カウンターの中のサイフォンは年代物な気がした。
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