現実

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「しばらく、こっちにいる。遺産管理人てわかるか?あれを頼んだ友人の弁護士が、頼んだ弁護士事務所を辞めてな? その相談に行くんだ。」 わかるのか?と思いながら話す。 遠野陽介は新聞社を辞めてから下請けの様な仕事を受けて暮らしていた。 いい仕事をひとつ受ければ大きな金額が入り、残りの日数は自分の調べたい事件を自由に調べられた。 新聞社勤務は月給は安定するが、好きな時に好きな様には動けない。 だから、退職した。 ストーカーと言われても仕方のない風貌だ。 小さく半端に伸びたひげ。 ぼさぼさの頭、スポーツ刈りが伸びた物だ。 切りに行く暇がなかった。 姪に久々に対面すると分かっていたら、床屋くらいは行ったのにと後悔していた。 よれよれのスーツも、かっこ悪いよな・・と思っていた。 「しばらくいるの?泊まるとこは?」 「いや、まだだけど、何処かホテルでも。」 答えると、ゆずるはスタスタ歩きだす。 「えっ?おい・・。」 「こっち。着いてきて。」 相変わらず言葉少な。 長い髪は可愛いお花のゴムで縛ってある。 膝までのスカート、シャツ、可愛らしい小学生の女の子。 でも、話すとどうも、大人びていて、落ち着いていて何を考えているか掴めない。 しばらく歩くゆずるから少し離れて着いて行く。 古い一軒家・・裏口から入って行く。 「ちょ!おい、人んち・・。」 「いいから・・。」 ずるずると、手を引かれて中へ入る。 古いがきちんと手入れされた落ち着いた家だ。 「こんにちはぁ。」 ゆずるがそう声をかけ、スタスタと、裏口の台所から中へ上がって行く。 「いらっしゃい。ゆずちゃん・・ん?お友達かな?」 70歳位の優しそうなおじいさんがゆずるを迎える。 「うん、おじさん。正真正銘の。」 「ほう。それはいいねぇ。」 「お茶入れるね?おばちゃんは?」 「さっき息子が来てね、ちょうど帰ったんで、今、送りに出てったよ。正面から来なくて正解だ。」 おじいさんはそう言うと、俺に座るように促す。 何がどうなっているのか・・黙って座る。 ゆずるは慣れた手つきでお茶をお盆に入れて運んできた。 「はい、おじちゃん。はい、叔父さん。」 「ありがとう。ゆずちゃんのお茶は美味しいんだ。」 嬉しそうにおじいさんはお茶を飲む。
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