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「私が分かる事はお話します。 あなたからお電話を戴いた時に、ノートを見たい理由も私は知らない方がいいと判断しました。 ですから何もお聞きしません。もし、誰かに聞かれても、当時の遠野さんの世間話をしてたと、そう言います。」
「はい。それで結構です。」
そう答えながらいくつかの確認をノートでする。
5年前・・鈴木孝文は間違いなく慰労会に参加していた。その前後のページも写す。
「高橋さんは、鈴木孝文さんをご存知ですか?」
「はい・・。遠野さんと同期の、ですよね? 慰労会でも会いました。遠野さんと一緒の所で御挨拶も一度。」
「どういう方ですか?雰囲気とか。」
「私はもうここは長くて、最初の慰労会から出てますが、最初は白井製薬の野田さんと仲良く話してました。野田さんはその後、妹さんが同じ会社に来たといろんな方にその年は紹介してました。
鈴木さんにも紹介されてましたよ? 次の年に確か・・遠野さんに紹介を。コノハ製薬さんは開発部は特に人不足で、慰労会には忙しい方は出ないので、毎年誰かが交代で参加みたいになってました。遠野さんがいらしたときは鈴木さんはいない事が多くて。」
ノートをまじまじともう一度最初から見る。
確かに、二人が同時に参加しているのは一度だけだ。
その時に野田は参加していないし、結婚後だから、由美さんも退職後、妊娠中で不参加だ。
二人が不参加の年に、兄と鈴木孝文は初めて同席していた。
真剣にノートを見る中で、高橋さんは続けた。
「鈴木さんも良い方でしたよ?少し、人見知りがある様な感じもしましたが、話せばきちんと応対してくれますし、物腰の柔らかい感じの方でした。研究者っていう感じですね。割とふっくらされていて、優しい雰囲気で。」
「そうですか・・」
ノートの関係ないと思う部分も出来るだけ写真を撮った。
時間の許す限り、穴があくほど見た。
お礼を言い、直接の連絡先を交換し、
「また、お聴きしたい事がありましたら、後日、連絡しても宜しいですか?」
と、遠慮気味に聞いてみた。
「私が分かるなら。本当に仕事でお会いするのを楽しみにしていたんですよ。私も何年かで定年です。心残りは片付けておきたい。」
高橋さんは呟いた。
あの事件を家族以外でこんなにも気に掛けてくれている人がいる。
有難くて、深く頭を下げて失礼した。
外に出ると、日差しがさらに強くなっている気がした。
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