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「このお店は・・長いのですか?」
コーラを飲みながら、綺麗な顔の男の子が聞いてきてた。
初めてのお客様で、一人でふらっと来て、外が暑いから避難して来たような感じで、カウンターに一人で座りコーラを飲んでいた。
声を掛けられて少し驚いて返事をした。
「私が店長ですが、20年以上は経っていると思います。」
「店長は何年ですか?あ・・ごめんなさい。そこのサイフォン、随分、年代物かなぁ?って思ったので。お店、長いのかなぁって。」
少年は悪い事を聞いた顔で、遠慮気味に言い、コーラを飲んだ。
「いいえ。一応、自分の店ですので、その前は父が店長で。これは父が店を始めた頃に買ったものですから、年期は入ってますがまだ現役です。」
そのお客様はへぇーと感心したように返事をすると、左手で頬杖を付き、サイフォンを見つめた。
そこからしばらくは黙ってしまい、綺麗な顔がサイフォンと私を見つめている気がした。
10分程の沈黙。
その間にもコーヒーや飲み物の注文が入り、カウンターの中で私は仕事をする。
山場が過ぎ、またグラスを磨くと、綺麗な少年はぽつりと話しかけてきた。
「そのサイフォン、現役だって言いましたよね?」
「ええ・・。そうですが?」
「僕に入れてもらえます?」
ちょっと驚いて聞き返す。
「先ほど、コーヒーは苦手だと、言われていたかと思いますが?」
「うん。でも、良い物で飲む機会はそうないし、良い物で入れられたものはきっと美味しい。」
端正な笑顔が目の前にある。
「あ・・値段高いかな?」
急に心配そうな顔をして聞く。
その表情が何とも間が抜けていて、可愛らしいので先ほどとは違う印象に驚いて笑ってしまった。
「申し訳ありません。」
「ううん・・で?高いかな?駄目かな?」
「よろしいですよ? お値段は普通のコーヒーより少々お高めですが、500円程です。」
「良かった。戴いても?」
「はい。ご用意いたしますが、少しお時間かかります、大丈夫ですか?」
「平気です。見てるのが楽しいので・・。」
そういうと、お客様は静かに左手で頬杖を付き直して、私の作業を静かに見ていた。
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