慰労会。

2/6
前へ
/348ページ
次へ
同じ会社の人がいたら挨拶し、知り合いがいれば挨拶し・・・。 (ちょっと疲れて来たな?) そう思った頃に、以前、病院のプレゼンで競合した白井製薬、営業の野田貴久さんに声を掛けられた。 「こんばんは。珍しいですね?去年はお見えではなかったですよね?」 「ええ。うちは人間が少ないので、みんなで会社を空けられなくて。お久しぶりです。お元気そうでなによりです。」 「ありがとうございます。あ・・これ、私の妹で。今、うちの事務にいます。なんとか就職できまして。うちで見かけましたらどうかお手柔らかに。」 野田さんの後ろにいる女性に目を向けて頭を下げる。 「初めまして。遠野陽一です。」 名刺を渡すと、慌てて名刺を出して渡してくれる。 パラパラと、彼女の手から名刺が落ちた。 「おいおい。落ち着いてくれよ?」 野田さんは笑いながら、それでも前方から声を掛けられるとそちらに移動して行った。 名刺を拾う手伝いをし、二人の頭がぶつかる。 「いたっ・・・。」 顔をあげると頭を押さえて申し訳なさそうな顔の女性がふっと笑った。 「すみません。改めまして・・野田、由美と申します。白井製薬の事務に去年からお世話になっております。兄も・・お世話になっているようで・・。」 立ちあがり、改めて名刺をもらう。 「こちらこそ・・。コノハ製薬の遠野と申します。ご丁寧にありがとうございます。」 名刺を渡すが、彼女は頭を撫でている。 「大丈夫ですか?」 と聞く。 「遠野さんは? 私は慣れているので。ドジなんです。」 そう言い笑う。 「自分も慣れています。夢中になって机によくぶつけます。」 と、答えるとお互いに顔を見て笑ってしまった。 話しやすい良い印象の女性だった。 そこからお付き合いになるまではそれほど時間はかからなかった。 第一印象がお互いに良くて、どんな話も二人で話すと楽しかった。 お互いの会社の事は勿論言えないけど、彼女は事務で、薬の事はまったく分からなかったのでそれも良かったのかもしれない。 一緒にいる間は仕事の事も忘れていられた。 1年後には、もう結婚の日取りも決まっていた。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

712人が本棚に入れています
本棚に追加