現実

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「ゆず!どういう事だ?」 2階の空いているという部屋に案内されて、少し落ち着いて聞く。 「ここね?ネコ追いかけてて入って、おじさんたちと仲良くなったの。二人暮らし。息子さんと折り合い悪し。1カ月位でしょ?荷物も大してないし、お世話になれば?寝るだけでしょ?どうせ。」 俺の服装や荷物を見てそう言う。 (可愛げない・・・。) 「おじさんの人柄とか?ゆずが保証するし、何かしでかしたら責任取るし・・。」 「しでかすって・・しないし、お前に責任とれるのか?」 「若い分、先の見通しは明るくない?」 (可愛くない・・。) 「あ、帰らなきゃ。心配かけちゃう。 気になるなら、おじさんの腰とか、おばさんの肩とか揉んであげて。また、明日来る。」 「明日は、弁護士のとこに・・。」 「夕方、来る。その弁護士にも会ってみたい気もするけど、陽介叔父さんにお任せする。」 後ろを向き、戸を開けるゆずるに声をかける。 「ゆずる・・。右手、その位しか動かないのか?リハビリ、退院後も通ったんだよな?」 「うん。かなり神経やられてるみたいだよ?大丈夫、あるだけありがたい。」 「俺の事は・・」 「言わないー。」 後ろ向きで答えて、帰って行った。 「頭・・いいな。」 (違うか・・機転が利くだな。) 1を聞いて10を知るとは言うが、まさにそれだなと思う。 しばらくお世話になる事になったこの家は、昔、下宿もやっていたらしく、2階から下りる階段は玄関横にあり、気付かれずに出入りする事も出来た。 「今時ねぇ。下宿もないし、昔は学生さんがいたんだけどね。だから気にしないで好きなだけいて。 ゆずちゃんの紹介なら信用できるしね。」 「何でそこまで?10歳ですよ?」 「うん。あんなに頭の切れる10歳はそういないよ? いい子だよ?僕がいない時に、家内が倒れてね。たまたま、庭から入ってきてたんだ。救急車呼んでくれて、電話で応急処置聞いてくれてね。 電話の相手も、中学生くらいかと思ってたって。助かったのはゆずちゃんのおかげだよ。」 「それからね、お見舞いも来てくれて。うちにも学校帰りに顔だしてくれるの。 ゆずちゃんの頼みだし、保証付だから安心してますよ。」 と言いながらおばさんは笑った。 「命の恩人は、大事にしないとね?」 夫婦は顔を見合わせた。 ゆずるは今も、末恐ろしいと思った。
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