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猫を全部、ケースに入れてからやっと缶コーヒーが出てくる。
「いつから探偵になった?」
猫探しのチラシを手に取る。
「弁護士の仕事がない。仕方なくだ。ここの家賃も払えなくなる。」
「何であんな大手の事務所辞めたんだ?」
そう聞く。
「それを言うならお前もだろ?新聞社、勿体無い。」
「自由に使える時間が欲しかったんだ。あそこにいたら兄貴の事件は探れない。」
「似た様なもんだな。セクハラしてるのにしてないって、弁護は嫌になった。大手は会社契約だ。個人じゃない。企業を守る為なら個人は切り捨てだ。疲れたよ。」
「立派だが、猫探しで喰えるのか?」
「ないよりはましだ。感謝はされる。」
椎名は変わらないなぁと思う。
椎名 巴(しいな ともえ)、大学時代からの友人、変わったやつだが真面目で信用できる。
友人の少ない俺には信用の出来る数少ない友人だった。
人の事は言えないがよれよれのスーツ。ぼさぼさの頭。
椎名は肩まで付きそうな長めの段カットの髪型で、髭も伸び、ろくに風呂にも入ってないと分かる様な姿だった。
細身で身長は170センチ位。細すぎて実際見るともっと背が高く見えた。
「兄貴の財産管理な。」
「ああ、うちの弁護士に引き継いだが?」
「引き取って来た。俺はお前に頼んだんだ。あの事務所じゃない。」
「けど、今じゃこれだよ?」
椎名は猫を見て言う。
「出来るだろう? 管理くらい。それに固定収入になる。僅かだが。」
「助かるけど、俺1人ではね?」
「大学の先生憶えてるか?糸島先生。」
「うん、変人、糸島。有名人だ。数学だっけ?」
「経済だ……糸島先生が引き受けてくれた。誰も使わない様に見張るのは得意だそうだ。」
「まぁ、一般人でも構わないけどね。姪っこは良いの?」
「任せるって。」
コーヒーを飲み、椎名は言う。
「10歳かぁ。分かんないよねぇ。」
「いや、お前よりしっかりしてるぞ?」
よれよれの椎名にそう言うと、
呆れた様に笑った。
「本当だよ?」
と、付け加えた。
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