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「いい機会だから、糸島先生を特別代理人、お前を遺産管理人に指名した。糸島先生が1年に1度、チェックするらしい。後はお前に任せる。代理人として椎名弁護士と契約するよ。」
「それだと、俺は使えるぞ?」
「糸島先生が調べて怪しければ俺に知らせるか通報するさ。」
「そんなに俺たちを信用していいのか?」
「するしかない。血の繋がらない夫婦に姪を預けてる。5歳の誕生日に家族を失った子を、顔見知りってだけでな。その上、兄貴の財産がなくなったら俺は自分の命で払うさ。
生命保険、1億掛けた。ゆずるを受取人にしてな。置いていくんだ…それ位しか出来ない。」
「側に居てやればいいのに。」
「事件は風化する。次から次に事件は起きる。誰だって自分のとこの犯人は見つけて欲しい。そんなに時間も人員も割けない。分かってるさ、新聞社にいたんだ。
兄貴の事件も証拠も少ない。もう5年過ぎた。急がないと、どんどん証拠が消える気がする。」
「ゆずる、ちゃんには、会ったのか?」
「ああ、目元が兄貴に似てる。それだけで泣きそうになるな。」
少し泣きそうな陽介を見て、椎名は言う。
「ゆずるちゃんも、お前を見て同じ事思ってるさ。もっとさ、顔見せてやれよ? 彼女の引き継ぐべき遺産は間違いなく管理させてもらう。必要なら、ちゃんと出させてもらう。高校とか大学とかな。ゆずるちゃん、どんな子なんだろうな。会ってみたいな。」
「…いや、会わない方が、良いかもな。一言で言えば末恐ろしい…。」
椎名は少し考えて、
「末恐ろしいほど、将来は美人か?」
と、真面目な顔で聞いた。
「そこは否定しないよ。美人で間違いない。」
コーヒーを飲み干して答えた。
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