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病院に着くと、霊安室に連れて行かれる。
(なんだよ?嘘だろ? こんな所に用はないよ・・。初めてだよ、こんなとこ。)
遺体が、並んでいる。
一番手前の顔の布を、無造作に引く。
しばらく、茫然と眺めて、それが自分の血の繋がった兄だと実感する。
「嘘だろ? 兄貴? なぁ、なんで? 誰だよ!何があったんだよ!兄貴、起きてくれよ。
これじゃあ、わかんないだろ? 記事にならないよ!!兄貴・・・。」
泣きながら、隣の遺体に移動して布を取る。
「由美さん・・・。」
さらに隣。
「みつる・・。」
産まれた時から知ってる、かわいい姪だ。
妹思いの優しい子で、大人しいお姉ちゃんだった。
「嘘だ! ちょっと待って。待ってくれ!おかしい・・おかしいよ?家族まとめて、なんでだ?」
膝をつき頭を抱える。
理解できない。
だって今日は、ゆずるの誕生日で、兄貴は仕事で後から追いかけるけど、有名な遊園地に行ってホテルで泊まると言ってたんだ。
「ゆずる、 ゆずるは?あの子がいない。」
(ニュースは、意識不明の重体・・・と。)
「ゆずるは?」
そこに案内してくれた看護師に聞く。
「まだ、意識不明のまま、集中治療室にいます。なんとか命は取り留めました。」
その後、廊下で警察に捕まり、話を聞かれた。
ゆずるの顔だけ見てからでいいかと言うと、さすがにそこは認めてくれた。
ゆずるは4歳で、小さな体に管やら機械やら繋がれて、何処が手だか足だか分からないなと思った。
息をするシュコ―、シュコ―という音が、ダー○べー○ーみたいで妙に安心した。
少なくともまだ生きている。
下の3人の様に・・音がないよりはましに思えた。
それから、病院が用意してくれた部屋で、小汚いおっさん二人に捕まって話しを聞かれた。
そこはお互い様だが。
兄貴の交友関係、仕事関係、近隣住人、由美さんの交友関係。
聞かれた所で、1年に2回、多くて4回、会うか位だ。
そこまで細かい事は知らない。
ただ、兄貴も由美さんも、人が良くて親切で真面目。馬鹿が付く位。
兄貴は製薬会社勤務で普通のサラリーマンだったし、由美さんは専業主婦だった。
二人の子は明るくて可愛くて、優しい思いやりのある、近所の人たちにも可愛がられていた。
俺は・・それしか知らない。
いくら聞かれても普通の事しか出てこない。
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