クリスマス

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ゆずるが目覚めて2日後、警察の事情聴取があった。 5歳の子の言葉を証拠には出来ない様だ。 家族の死もまだ話していなかったので、警察がすんなりと伝えた事に腹が立ったが、自分には伝えられないと思ったので、諦めもあった。 ゆずるは黙って聞いていた。 昔から落ち着いていて子供らしくない所もあったが、兄貴は頭が良いんだと言っていた。 それでも、お土産を渡すとにっこり笑って、お礼を言う可愛らしい素直な子だった。 ゆずるは、右の掌と肩を数回刺されていて、発見が遅ければ出血多量で危ない所だったと医師に言われた。 神経が傷ついているので、リハビリが必要だと、もしかしたら、一生、動かない事もあるのだと言われたが、それもまだ、本人には伝えていなかった。 ゆずるが目覚めて5日後、警察から遺体を引き渡すと連絡があり、葬儀を行なった。 外出許可をもらい、ゆずるも葬儀に参列した。 「無理しなくていいんだぞ?」 俺はそう言ったが、黙って首を振るだけだった。 葬儀場に着くとゆずるは真っ直ぐ、棺の前に歩いて行く。 「ふた、取って。全身が見たい。」 ポツリと呟く。 その言葉は、その場にいる参列者も離れた所にいる警察も驚かせた。 「いいのか?」 俺の言葉に頷く。 最後の別れといえばそうなる。 「すみません、親戚以外は外にお願いします。」 検視の後だ…どんな状態かわからない。 俺もまだ、見ていない。 ゆずるの言うまま、棺の蓋を開ける。 ゆずるは動かない右手の代わりに、左手で顔に触れ、しばらくすると、左手で右手を持ち上げて父親を触った。 「ゆずる?」 同じ様に母親も姉も、左手で顔を触り、愛おしむ様に撫でてから、左手で右手を持ち上げて、右手で触るを繰り返した。 ひとりひとり、丁寧に。 やればやる程に涙を流した。 ひとり5分位だろうか。 姉までやると、 「ありがとうございました。」 と、俺に頭を下げて、遺族席に座った。 とても5歳とは思えなかった。 そうして無事に葬儀は終わった。 犯人は見つからないまま、ゆずるの退院が近付いた。
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