現実

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ゆずるの退院が近付き、誰が引き取るかで、俺と由美さんの兄貴でもめる結果になった。 そりゃ・・出来るなら引き取りたい。 兄貴の忘れ形見、可愛い姪。 現実は厳しい、お金の問題ではなく、まず、仕事。 不規則すぎる。 預けるにしても、迎えになど行けるかもわからない。 食事ひとつにしても、作ってやれない・・いい環境とは言えない。 お手伝いを頼むにとしても、住み込みしてもらえるものか? 由美さんの兄夫婦は喜んで引き取るという。 「3人子供がいる、女の子はいないから嬉しい、華やかになる。大歓迎だよ?」 そう言われるが、奥さんは目が金の形に見えるし、お兄さんはどこか不安気で心配になる。 いきなり女の子を引き取るんだから不安も分かるが、姪だぞ?と思ってしまう。 住んでいた家、預貯金、兄貴の会社からの退職金を兼ねた見舞い金、生命保険。 一人残ったゆずるには兄貴が掛けていたすべてが相続される。 そして、それは引き取った親代わりが後見人として20歳まで管理する。 (由美さんには悪いけど、この人達でゆずるが20になるまで残ってるのか?) そう思うと、安心してお任せする気にはなれなかった。 だけど、自分が引き取れないなら、母親の兄の家に行くのは筋が通ってる。 反対もできない。 「ゆずるは・・どうしたい?」 顔を覗き、ベッドのゆずるに聞いてみる。 「4歳ですよ?まだ分かりませんよ。」 由美さんの兄に言われる。 (そうかな?) 心のどこかでそう思う。 何故かはわからないけど。 「家は・・・。」 ゆずるはぼそっと話した。 「ん?なんだ。何でも言ってくれ。叔父さんが出来る事は聞くよ?」 「あの家は、そのままにする。売らない。時々、私が掃除に行く。」 「売らない?あんな家、そりゃ高くは売れないけど、土地だけなら売れるのよ?」 由美さんの兄夫婦は、驚いて声をあげる。 「売らない。陽介叔父さんのとこに行きたいけど、無理そうだから・・一人であそこで暮らす。」 「いや・・ゆずる、それは無理だよ?君はまだ子供だ。」 「じゃあ・・施設でいい。」 「ちょっと!親族がいるのにそんなこと。」 奥さんが金切り声をあげた時、 「私は犯人の顔を見てる。」 と、ゆずるが突然言った。 「犯人も知ってる、私が見た事。きっと来るよ? 次は、私を預かった家が皆殺しだ。」 由美さん兄夫婦もその言葉に思わず、 「こ、この子は両親を殺されて、おかしくなった。」
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