観戦彼女

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 試合終了から一時間たっても、俺の頭からは、最後に高らかに鳴ったホイッスルの音が、こびりついて離れなかった。  俺が所属するサッカー部の大事な一戦。  結果は……思い出すだけで惨めになるから、勘弁してほしい。  解散し、チームメイトも観衆も、すっかり帰ってがらんとしている観戦席で、俺は一人、背中を丸めてうなだれている。  あの時、あのシュートが入っていれば。そんないまさら取り返しようもない後悔が、次から次へと込み上げてきた。 「ちくしょう」  そうつぶやいた時、すとん、と俺の隣に誰かが腰を下ろした。  間近に触れる温もりと、シャンプーの匂い。  誰かなんて、見るまでもない。 「ナイスファイト」  短く、やつが――俺の幼馴染であり、彼女でもあるやつが、呟いた。 「ナイスだって?」  俺はうつむいたまま、唸るように言った。ぐっと拳を握りこむ。 「どれだけ頑張ったとしても、結果が出せなきゃ、意味ないんだよ。試合に勝てなきゃ……」  違う、と、心のどこかで声がはじけた。  俺がやつに言いたかったのは、こんな言葉じゃない。  応援に来てくれてありがとうって。  まだ立ち上がれずにいる俺を、ずっと待っていてくれてありがとうって。  勝てなくてごめんって。  本当はそう、言いたかったのに。  情けなさと恥ずかしさで、俺は顔を上げられない。やつがどんな顔で、俺の心無い一言を受け止めたのか、目にする勇気がない。  俺にできるのは、かすかな声で詫びるだけだ。 「……ごめんな、こんな、かっこ悪い奴で」 「ん」  やつが寄越したのは、肯定とも否定ともとれる返答だった。  失望されてしまっただろうか――ひやりと恐れが胸を過った時、ぽん、と俺の頭に手が乗せられた。  恐る恐る顔を上げると、すぐ近くに、やつの顔があった。  いつもと同じおかっぱ頭に、地味な丸眼鏡。  そして例によって愛想笑いのかけらもないやつの顔つきは――だが、無表情なのではなかった。  いつになく真剣な面持ちで、俺を見つめていた。 「そうやって、全力で悔しがれるほど一生懸命な所、私は、素敵だと思うよ」  ぽんぽんと、何度も俺の頭の上で、やつの手が跳ねる。 「……」  何を言えばいいのか分からなくて、俺は再びうつむいた。  そしてやつの手のぬくもりを感じながら――少し、泣いた。
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