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「部長!!」
「野之巻」
私の声に被せるかのように彼からも声が投げかけられた。
「は はい!」
「まあ よくあることだ」
「は……あ?」
「俺も若い時には 思い通りにいかないことが往々にしてあった」
「はい……」
「酒を煽って 同期に迷惑もかけたこともある だからな……」
「あの……」
「何だ?」
「いえ 私が落ち込んでいるから 慰めてくれてるんですか?」
「はっ はあ? 何で俺が!」
「じゃあ 励ましてくれてるんですか?」
「そ そんな事 俺がするわけないだろ!」
少し浮ついたような言葉を発っする彼を目の当たりにする。こんなあやふやな声など聞いたことがない。
(これはもしかして)
「部長」
「な なんだ」
「手 離して貰えませんか? 逃げたりはしませんので」
「あっ あああ す すまん」
慌てて先ほどから掴んでいた手が解放されると、同時に部長はばつの悪い表情を浮かべながら、斜め上の夜空に視線を送ると暫く。いきなり彼が勢いよく頭を掻いた。
「ああぁああ 調子狂った! よし 帰るぞ野之巻!」
そう言い放つと、ズカズカと車の方へと向かっていく。そんな彼の姿がとても新鮮に、そして少しだけ親近感が沸いてくる。
本人はああは言っているものの、彼なりに心配をしてくれていたのだということが伝わってきたからだ。
(不器用?…… うんん 素直じゃないと言うべき?……)
何だか、私の知らない部長の一面が見れたと思うと、不謹慎だが思わず笑みが毀れる。
「終点迄来て良かったかも」
「野之巻 何笑いながら 独り言言っているんだ! お前 ここに残るのか?」
「いえ 帰ります!」
「じゃあ 早く来い!」
「は はい 後 言うの遅くなってしまいましたが ここ迄来てくださってありがとうございました!!」
そう言うと、彼の方へと走っていく。そんな二人のやりとを、満天の星空は静かに、見守っていた。
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