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空を見上げる。
竜だ。
ああ、竜が飛んでいるから、影になったのね。
硬い壁のような鱗。ぎょろりと見つめる大きな目、ゆうゆうと左右に振る長いしっぽ。大きく広げられた翼。鋭い足の爪。
竜が飛んでいる。
この陸島近く、ずいぶん低くゆっくりと飛んでいる。
ゆっくりと風に乗って。まるで風の波に乗っているように。
大きな翼をほんの少し動かすだけで、この陸島が動くくらい強い風が起きている。
エネスのいる陸島は軌道が少しずれる。
けれど竜はこの陸島の近くをずっと飛んでいる。
いいなあ。竜は飛べて。どこにでも行ける。人は飛べない。いくら隣の陸島があってもわたることができない。
ああ、竜の様に飛べたら。ルイのいる陸島に渡れるのに。ルイを助けられるのに
ぎょろりと竜の目が動いた。丸い金色の目に一筋の深い緑の線が、私に向かう
(娘・・・私に何か用か?)
頭の中に低く低く、轟くように言葉が届いた。
エネスは頭が痛くなり思わず頭を抱えて縮こまった。
再び頭の中で声がする。けれど、今度は聞き取れるようなゆっくりと、はっきりした口調で。
(娘・・・・私にしてほしいことはないか?)
エネスは驚いて竜を見た。真ん丸だった瞳が少し細くなっているような気がする。
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