《1》

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 朝陽が窓から差し込んで、教室を眩く照らす。瞼を差すその光が眩くて、明日原逢介は窓際の席から、鬱陶しげに窓外を見やった。  高く昇った太陽から目線を下げると、中庭の桜が最後の満開を見せていた。来週にはゴールデンウィークとなる四月の最終週だ、そろそろあの桜も、清々しい新緑の木々へと姿を変えるのだろう。この来南高校で始まった高校二年生としての高校生活も、早一か月ということか。光陰矢の如し、とはよく言ったものだ。 「──というわけで、今日のホームルームは終わりだ。今日も一日、頑張りたまえ」  逢介の属する、二年三組の担任教師、佐藤佳乃が一際大きな声を上げて、朝のホームルームを締めくくった。この来南高校では、高校三年間の間にクラス替えが行われない。当然、担任教師も三年間続投。艶やかな黒髪を背中まで伸ばした長髪の美人、佐藤が男勝りな口調でクラスメイトを鼓舞するのも、もうとっくに見慣れた光景だ。逢介は代わり映えしない教室の風景を流して、ホームルームが終わって談笑を始めたクラスメイトの中に溶け込もうとする。 「ああ、そうだ。明日原、ちょっといいか」  だが、それは佐藤の唐突な呼びかけに遮られた。怪訝な顔をして、彼女の元へ行く。 「なんですか?」 「明日原。昨日の道徳の課題、提出したよな?」 「え? え、ええ。出しましたけど」 「だよなあ」  逢介の返答に佐藤は腕組みをして唸った。 「……なにかあったんですか?」 「あー、いや、言いにくいんだがな……お前の道徳のノートが見当たらないんだよ」 「見当たらない?」 「ああ。昨日お前と松本が持ってきてくれたノートの中にお前のノートが無かったんだ」  罪悪感を感じているのか、言いにくそうに佐藤が言う。  道徳のノート、と言えば、昨日課題提出のために段ボール箱に入れたあのノートのことだ。逢介は確かにノートをあそこに入れたし、あの段ボール箱に入っていたノートは、クラス委員を務める逢介と、もう一人のクラス委員の女子、松本春香の二人で一冊残らず放課後に佐藤に届けたはずだ。 「クラス委員で真面目な性格のお前が課題を出さないなんて、今まで一度も無かったからな。もう一度聞くが、本当に出したんだな?」 「出しましたよ。井上と一緒に提出してたんで、嘘だと思うならあいつに聞いてくださいよ」 「いや、君がそう言うならそうなんだろう。警察じゃあるまいし、アリバイを確かめるような真似なんざしないさ」  佐藤は逢介に苦笑すると、肩をぽん、と叩いた。 「もしかしたら、私が別のノートの束に君の道徳のノートを紛れ込ませてしまったのかもしれん。なんせ、私の職員室の机はおそろしく散らかっているからな」 「自慢げに言わないでくださいよ……」  呆れたように言う逢介だったが佐藤はどこ吹く風、可笑しそうに笑うだけだった。この竹を割ったような性格もまた彼女の人気のある所なのだが……。 「とにかく、もう少し私の方で探してみるよ。すまなかったな」 「あの……それって、見つからなかったらどうなるんですか? まさか、失くしたからもう一度作文を書き直せ、なんて言わないですよね?」 「む……。そう言いたい気持ちはやまやまだが……もしノートが本当に見つからず、かつ君に非が無いのなら、評価に関しては不問にしよう。まあ、そうならないようにちゃんと探すさ」  佐藤は逢介の肩を叩き、教室を出て行った。その後ろ姿を見送ってから、逢介は大きなため息をついたのだった。
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