マクトゥーブ

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アパートに戻ると、私の担当編集者が待っていた。 ”しまった、今度書く短編小説の打ち合わせ・・・今日だったのをすっかり忘れていた” しかも、本の事で頭がいっぱいの私は、結局小説の内容を決められずに、後日もう一度打ち合わせをするはめになってしまった。 悪い事をしたと思いつつ、それでも藁をも掴む思いの私は、不機嫌そうに帰り支度をする彼に、恐る恐る『あの本』を探してくれるように頼んでみた。 彼は「いいですけど・・・そのかわり先生、ちゃんと書いて下さいね、短編」としぶしぶOkしてくれた。 もう、なり振りかまうのは止めよう。雑誌に連載している私のコラム(『あの本』とはまったく関係のないコラムなのだが)にも、さりげなく、違和感のないように書いてみようと思う。 これはいい考えだと思ったが、結果は熱が入りすぎて失敗した。 『あの本』について、五回にわたって書いたのはさすがにまずかった。 後日、編集長に呼び出されて「次書いたら打ち切りにするよ」と脅されてしまった。 打ち切りは困る。作家と言っても、たいして売れていない私は、一つでも仕事が減ったらすぐに生活に影響が出てしまう。 でも、私はあきらめない。何か、何かいい方法があるはずだ。 ”ああ、集中して考えたいのに、短編小説のネタも考えなきゃいけないんだった・・・” ”いや、待てよ・・・” ”そうか・・・” ”そうだ!” 頼まれていた短編小説に、探している本の事を書けばいいじゃないか。 タイトルは・・・そう『マクトゥーブ』だ!
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