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第壱章
私はどうしても、その本を手に入れたいと思った。
たしかにそれは、かなり難しい事なのだが…。
なぜなら、その本は何十年も昔の古い本で、本屋に置いていないところを見ると、どうやら絶版になっているらしい。
しかし一番の問題は、私がその本のタイトルを思い出せないという事だ。
これは致命的で、タイトルが分からないと探しようがない。
何度か本屋の店員に尋ねて、あれやこれやと覚えている限りの断片的なストーリーを話してみるのだが「ほら、あんな話で、こんな登場人物で・・・ほらあれだよ、あれ」といった具合で、全く話にならない。年老いた私がそれでもむきになって説明を続けると、自分がなんだか物忘れのひどくなった頑固な老人じみてきて、そんな自分が毎回哀れで可笑しくなり、最後は「忘れてくれ」と自嘲気味に笑って話を切り上げしまうのがいつものオチだった。
ストーリー以外で思い出せる事と言えば、その本の中で何度も登場する「マクトゥーブ」という言葉だ。
しかしその言葉も、本を探す手掛かりにはなりえなかった。
作家になった今なら、本の固有番号であるISBN(国際標準図書番号)を、きっとぬかりなく何処かに書き留めていただろうに・・・。
だがしかし、私はあきらめない。
何故ならその本は、恋人との想い出の本だからだ。
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