マクトゥーブ

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第伍章 君は驚いて私を見上げ「・・・ごめん・・・結婚が、よくイメージできないの。なんだかもっと先の、壮大な旅の果てにあるものだって思っていたから・・・」と少し困った顔をして言葉を詰まらせた。 それは解る。私とて、これから二人の行く先に、砂漠のように茫漠とした時間と空間が広がっていると、想像できない訳ではない。だが、だからこそ、私は君に言わなければならないと思ったのだ。卒業してしまう前に、二人が別々の道を歩み出す前に。 しばらく言葉を失ってしまった私に、それでも君は「でも、あなたの事は好きよ」と頬を紅くして、気を取り直したみたいに明るい顔をして見せてくれた。 それから「そうね、わたし達の物語に、それが書かれているならそうしましょう」 そう微笑んで「マクトゥーブ」と締めくくった。 なんだか先走ってしまった恥ずかしさと、君の表情に浮かんだ困惑を払拭したくて、私はわざと自信に満ちた声を出し「マクトゥーブ」と返事をした。 それからしばらくして、二人は些細な事がきっかけで仲違いをしてしまう。 そのままゆっくりと疎遠になり、やがて卒業証書が二人を決定的に隔ててしまった。
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