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第陸章
最後のページにたどり着けなかった私達の栞、ピラミッドを目前にしたオアシス、『アルファヨウム』で永遠に止まってしまった私達の時間。
その後、一人で何度かあの本の続きを読もうとした。
でも、できなかった。
その後数年間は、いつも本屋にあった。次に単行本が出て、いつの間にか古本屋で見かけるようになり、そしてとうとう何処にもなくなってしまった。
やがて三百の井戸と、五万本のナツメヤシが茂る美しいオアシスは、君を抱いたまま記憶の砂に埋もれていった。
私は、どの機会も逃したのだ・・・。読む事はおろか、本を手に取る事すらできなかった。
なぜならば、一人で続きを読む事は、君を永遠に失ったと認める事になるからだ。
それに、あの日々の、あの二人の旅路はかけがえのないものだった。だから読もうとする度に、“私一人でエジプトにたどり着いてなんになるのか、宝物がどれ程の価値だと言うのか、全ては君がいなくちゃ話にならなかったのに!”と激しい思いに胸をかき乱され、あの本を棚から引き抜く事ができなかったのだ。
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