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その人は口元を緩めて微笑んでいた。
柔らかい雰囲気を持つ人だったけど、笑顔はとても儚かった。
消えてしまいそうだ。
現実にはいない人かもしれない。
そんなバカげたことまで考えてしまった。
「さあ、もう帰りなよ。これ以上、遅くならない方がいい」
二十六歳の私よりも年下に見えるその人は、そう言って私の頭をポンッと軽く叩いた。
「あ、あの!」
なんだか、放っておけない。そんな気がした。
この人を一人にしてはいけない。
だから、何か引き留める術がないかと逡巡したものの、その隙に、男性は身体を翻してしまった。
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