第一章 歯車

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「じゃあね、光里さん」 少しだけこちらを振り向いて言うと、迷うことなく歩き始めた。 「……え? あ、待って!」 大きな声を出したけれど、その人はあっという間に雑踏の中へと消えてしまった。 一瞬のことで、聞きそびれた。 何故、名乗ってもいない私の名前を知っていたのか。 この時、私と彼の歯車は回り始めてしまったのだ。 いや、あの時。 彼の手が私の手に触れた瞬間、動き出してはいけない時間が動き出したのかもしれない。
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