第二章 距離

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三月末の日曜日。 自宅マンションで本を読みながら過ごしていると、ローテーブルに置いてあったスマホが振動した。 ブブッブブッという振動音とともに聞こえてきたのは、少し前に流行ったJ-Pop。 それは、クラシックが好きな智也が珍しく気に入った歌だった。 それを聞いた途端、心臓が大きく跳ねて、そこにあることを主張するように悲鳴を上げる。 もう連絡先を消してもいいはずなのに、消すことができず、結局そのままになっていた。 お互いの家にあった荷物だって、とっくに引き払い、もう用はないはず。 でも、と思い、ありえない、と首を振る。 やっぱり気が変わった、と言うような人ではないことは充分過ぎるほど分かっているのに、一瞬期待した自分に嫌気がさす。 本を置き、ふぅっと大きく息を吐いてから電話に出た。
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