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その後は、海のある街を探した。
一番頻繁に足を運んだのは、あの夏の日。二人で来た海のある町だった。
途中、出産の前後は中断するしかなかったが、それでも動ける時間の大半を育児と奏佑探しに当てた。
そうして、四年。ようやく奏佑を知る人に出逢った。
「奏祐は大学でも目立っていたみたいだね」
「あ……」
「今、三年生?」
「……うん。大学受験の勉強からし直したから」
「それでも、すぐに合格するって、凄いと思うけど」
もともと優秀な奏祐だったから、実現したことだろう。久志が、頭のいい奴がいるんだって自慢していたから。
「僕に、夢はなかったんだ。現役の頃は、適当に大学に入って、ぼんやりと日々を過ごしていた。退学することになっても何とも思わなかったんだ。借金を返すために始めた仕事に対しても、何も感情は湧かなかった。何もかも捨ててみたけど、どうすることが正解なのか、分からなかった。あんなことをしたから、光里さんにはもう会えなかったし……憎まれたら、それで満足できると思ったんだ。それなのに、全然満足できなかった。落ち込んでいくばかりだったし、後悔しかなくて。罪が増えただけだった」
「うん」
「そんな時、久志の夢を思い出したんだ。僕は生涯、罪を償っていかなくてはいけない。それなら、久志の夢を叶えて、いつも久志のことを忘れないように生きていこうって。光里さんに酷いことをした僕が言えた立場じゃないかもしれないけど……」
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