第1章旅人

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
ああ、寒い ここはどこだろうか。もうずっと長い間歩いてきた。 故郷を出てから1年、俺は一人で旅を続けている。 ずっと答えを探している。 この世界はなんのために作られたのかを。 どうして俺は生まれてきたのかを。 小さいころからそんなことばかり考えていた。 周りはそんな俺を、考えすぎだと笑った。 彼らは疑問に思わないのだろうか。 この世界の理不尽さに。 自分という存在の不思議さに。いや、不快さというべきか。 どこからきてどこへいくのか。 そんな名前の絵画があったっけな。書いた人はそのあと自殺を図ったけど。 ああ、嫌だ。なんでこんな暗い人間なのだろうか。自分で自分に腹が立つ。 もう少し器用に生きることができればいいのに。 もっと明るく、たくさんの友達と楽しく生きればいいのに。 でも俺には難しい。そもそも人といると疲れるんだ。そのくせ人恋しいとくる。 村で家を継ぐことも考えた。しかし今のままではとても集中できそうにない。 俺は親の承諾をもらって旅に出た。もちろんそのあとに家を継ぐ約束だ。 旅に出た理由は答えが知りたかったからだ。 いろんな人と出会い、いろんな価値観に触れてみたかったからだ。 そして旅に出た理由はもう一つある。 それは、この国で一番の賢者に会うことだ。 ありとあらゆる知識を持ち、その人にわからないことはないという噂だ。 ただ問題なのは、その賢者は根っからの風来坊であり、神出鬼没だということ。 探しても会えないということが多いらしい。 だが俺は答えが知りたい。命の意味を。存在理由を! そのためなら、歩き回るぐらい大したことではない。 何としてでも賢者に会って話を聞かねばならない。 俺は崖に立った。風が強い。あたり一面は深い霧で包まれている。空もどんよりとした曇り空だ。光など見えやしない。 それでも俺は歩みを止めない。はっきりいって俺は自分の居場所さえわからない迷子だ。 現実を受け入れられない子供でもある。だがそんな俺でも、答えを探す権利ぐらいはあると思う。俺はこの世界に放り出された存在なのだから。 それにしても、ここまでどのくらい歩いてきたのだろうか。しばらく満足に食べていない。喉も乾いた。どこかに村はないのだろうか。 その時、空が少し明るくなった。崖の下に家が見えた。 どうやら村が近くにあるようだ。俺は興奮した気持ちを落ち着かせ、急いで走り出した。 俺の旅は始まったばかりだ。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!