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「痛って」
円はビンタされて腫れた頬を、氷水の入ったビニール袋で包んで冷やしていた。円は、でアニメを再生していたパソコンに繋がったイヤホンを外し、その下の耳栓を取った。この耳栓は、100均の耳栓を2つ、刺繍糸で縫い合わせて作った、自家製のパワーアップ耳栓だ。本当はモルデックスの高級な耳栓を買いたいのだが、ネットでしか手に入らない。ネットショッピングだと必然的にクレジットカードがいるので、未成年の円は自力では買えないのだ。そもそも母親が、円が部屋に隠している耳栓を見つけ次第処分してしまうので、あまり高級なものを買えないというのもある。先ほど耳栓を外した時は、台所から怪鳥のような金切り声を上げる母親と、それを必死で宥める父親の喧嘩が聞こえていた。しかし今は静かだ。良かった。ようやく疲れて眠ってくれた。
丁度その時、コンコンというノックの音とともに、ひょっこりと父が顔を出した。廊下の明かりが、パソコンの光だけを付けている円の部屋を細く照らす。
「まどか。ごめんな、母さんを止められなくて。痛かっただろう」
父が眉を八の字に下げてすまなさそうな顔を作る。そこで謝るなら離婚しろよ、という文句は、自
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