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「――1年間色々とありましたが、このクラスでよかったと思っています。本当にありがとう」
修了式後の翔を思い出す。
シンプルな別れの言葉だ。
ただ、翔の微笑んだ顔から放たれたソレは、冷えた教室の空気を含んで暖かく、勢いよく膨れてのみ込まんとする雰囲気があった。
クラスメイトは、翔が口を開く瞬間と閉じてからの数瞬、吸い込まれるように沈黙していた。
魔法にでもかけられたかのように、すっと。
単純に、翔は凄いやつだ。
初めからではない。いや、初めから別の方向では目立っていた。
俺が翔を初めて見たのは、小学1年生の入学式だ。
静かにじっとしていなければならない、退屈な体育館。
「ねむい」
突然、体育館に響いた声。その主が翔だった。
俺もその時眠かったこともあって、言いたいことを言った翔への初めての印象は、“よくわからないけど、すごいやつがいる”だった。
でも、同じクラスになって、その印象は覆されることになる。
翔は、頭がいいものの頭のおかしな奴だった。
授業中に「つまらない」と言ったり、算数の問題を他の子が指されているにも関わらず答えてしまうなんて日常茶飯事。そのくせ、自覚がないのか、指摘されるととぼけた顔で、「ぼくしゃべってないよ」と首をかしげる。
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