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なんとなく、彼は知っている気がするのだ。私だけではなく、きっとクラス全員の様々なことを。
だから、すぐに白状する。
「頭の中でずっと“王さま”って呼んでたから」
「王さまかあ」
案の定、別段驚くこともなく、相武くんは知っていたような顔でクスクスと笑う。
そのまま跳ねるように窓側へ来た彼は、前から3列目――つまり、後ろの席の机の上に座った。外を見るために窓側に体を向けて座る私と違い、こちらを見るように私の方へ体を向けて。
驚く私の顔を満足そうな顔で見てから、相武くんは顔だけ外へ向けた。
「で、なにか見てたの?」
「なんにも」
「じゃあ、なにしてたの?」
「なんにも」
「ふうん」
素直に答えながら、私は外を眺める。
外では乾いた風が吹いていた。
風は緑に覆われ始めた木を撫で、地面に落ちたいつかの木の葉を転がし、かさかさと音を立てている。
本当に、なにもしていなかった。
私は窓の外に広がる風景を、なにも考えずに瞳に映していただけだ。
誰も帰ってこないはずの教室に残っていた。
それなのに、よりによってまさか彼が帰ってくるとは。しかも、隣に。
そもそもこの1年、このクラスで初対面した私と相武くんが話すことなど無に等しかった。
否、近づこうとも思わなかった。
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