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私はこの教室に君臨する王さまの物語を眺めていただけだ。目立たず騒がず、蚊帳の外からクラスの感情の移り変わりを感じていただけだ。
まさか彼は、そんな私のことまで知っているのだろうか。
今日までなにを考えていたか。今日何をするか。
「……なんで、今日話しかけてきたの?」
恐る恐る、問いかける。
目を細めてぼうっと外を見ていた相武くんは、私の声に少し目蓋を開け、「うーん」と少し考え、
「君は別段見目が美しいわけでもなく、特別な力があるわけでもない。特に関わりのないメガネでおさげの普通の女の子だ」
”王さま”と言われたことに合わせたのか、演劇の台詞を話すような口調で、でも驚くほどバッサリと言い切った。
「でも、僕を王さまだと思っている。しかも、裸の王さまのような滑稽な王とかじゃなく、服を着込んだ渋い王としてね。……他の子はアイドルとか王子様とかキラキラしたモノだったのに」
彼は机に手をつき、なにかを思い返すような表情で天井を仰ぐ。それから、瞳だけをこちらに向け、目を合わせると静かに微笑んだ。
「最後に話をしてみたかった。これ以上の理由はないと思わない?」
あ、初めて見た顔だ。反射的にそう思った。普段聞かせているすっと入ってくる声とは違い、奥底から響くような低い声。普段の真っ直ぐで誠実な顔とは違い、どこか影のありそうな表情。
出会ったことのない面に、思わず息をのむ。
でも、新たな発見に高揚する心に反して、頭は冷静に働いた。
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