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『均衡は繊細な陶器のようなもの。』
そんな一文を見たことがある。
少年野球でコーチをしていた父親が持っていたコーチングの本だ。投げ方がおかしいとフォームを変えられたプロのエースピッチャーが、その後絶不調になったという話が書かれていたと思う。
余程無理な姿勢で投げていない限り、選手の個性が出ているならそのフォームが正解なのだ、と。
読んだ時は解らなかったが、今なら解る。
均衡はなにかが少し崩れただけで壊れる。それは、投手のフォーム、いや、スポーツに限った話じゃない。
それから、均衡が崩れても絶不調にならないやつもいる。
「――翔くーん!」記憶の中で黄色い声が木霊した。
中学に上がっても翔の勢いは衰えなかった。
同じクラスになって、さっそくクラス委員長に抜擢された翔の働きを身近で見るようになり、俺もその凄さをさらに感じるようになった。
その凄さは、クラスにも学年にも留まるなんてことはなかった。
児童会にいたせいもあって、同じ小学校の先輩の間で翔は元々有名だった。が、5月の体育祭で、運動部に交じってリレーに出場してからは、更に知られるように。特に女の先輩から構われるようになった。
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