[王さまの失脚と王さまの退位]

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 目を瞬かせる。と、ぼんやりとした視界に均衡のとれた顔が現れた。  その顔は、しょうがないものでも見るような、これ以上ないほど哀しそうな顔で微笑んでいる。 「……君はとても醜くて素敵だね」  そんな言葉と共に、冷気が顔からふっと離れる。  肩に手が置かれた。 「そんなこと願ってないでしょ」という言葉が降る。2回あやすように優しく、暖かい手のひらが私の肩を叩いた。 「やっぱり、学校にはないよなあ」  どこか吹っ切れたような清々しい声で呟いた彼は、立ち上がった。 「じゃ、またね」  足音が去る。その後、がらりとドアがひとりで(・・・・)閉まった。 「……じゃあね」  誰もいないドアに向かって呟いてから、私はスクールバックを抱えた。  冷たくなったそれに、ぼうっとする頭を冷ますように押しつける。  帰ってから寝よう。そう思う。  準備のために、しばらく寝不足が続いていた。  握っていたスマートフォンの電源を入れる。  緑色のLINEのアイコンをタップする。  アカウント名と写真を変え、『1-Cの溜まり場』を開く。  『アルバム』を選択して、準備していた画像を順番に選んでいく。  11のデータを眺め――  王さまのいた教室で、私――高屋愛実はスマートフォンをタップした。
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