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「――飯、出来たら呼んで」
母親にエナメルの黒いカバンを預けて、2階に上がる。
突き当たりの部屋のドアを押し開けてすぐのスイッチを押せば、曇り空のせいで薄暗いそこのライトがつき、床が眩しく光った。
「……さっむ」
机に向かいながら、そんな感想が口をついて零れた。
持っていた春休み中の課題入りのファイルを机の上に投げ、急いでリモコンの暖房ボタンを押す。と、“ピッ”という軽快な音のあとにエアコンの緑のランプが灯った。
誰かが小さく唸るような音を出して動き出す。
どうしても隠せず冷え切った顔に、生暖かい風が当たった。風に撫でられた場所から徐々に血が通う。
指先にも感覚が戻るのを待って、小さく息を吐いた。
その指でボタンを外し、キャメル色のコートと学ランを脱ぐ。床に転がっていたハンガーにかけ、クローゼットへ。
制服と洋服、あまりはかない靴とタオルが、決められた場所にまとまって並んでいる。練習着やユニホームは、「汗臭くなるから」と母親が別の場所にしまっていて、ない。
そんな、開いたクローゼットの中を、しばらく睨む。
肌着の入ったタンスの上に瞳を動かす。あるのは、真っ白な野球ボール。と、どうしても目に入る青い小瓶。
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