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「まだ、日の出まで時間がありますね」
「そうだな」
彼女が余呉湖での日の出の写真が撮りたいと言うから来たというのに、今は残念ながら雪が降り、空は曇っている。
「日の出、撮れるのか?」
空を見上げ、俺が少し心配しながらそう言うと、黛は少しの曇りもない表情で言った。
「撮れます。ていうか、撮ります」
そう言い切る彼女からは、強い意志が見えた。そんなに写真が大切なのか。
そんなもの、どうせ撮ったらおしまいだろ、と心の中で思う。口には出しては言わないけれど。そんな俺の心が彼女に通じたかのように、彼女は俺に言った。
「前に先輩、なんでそんなに写真にこだわるのかって聞いてきたことありましたよね」
「そうだなー」
「私は、写真で撮る“一瞬”を、私の中の“永遠”にしたいんです」
彼女の言うことは前からよく分からない。初めて声をかけた時も、そうだったような気がする。
「今しかない“一瞬”を、一枚の写真の中に閉じ込めて、いつまでも大切にしていたいんです」
「ふうん。俺にはよく分からないな」
そっけない返事をすると、彼女は少し拗ねたような顔をした。実際の表情はそこまで変わっていないが、瞳を見ればわかる。実は、彼女の表情はコロコロ変わる。
「そう言う先輩は、なんであの時私に声かけてくれたんですか」
唐突な彼女の質問。そんなことを聞いて、何になるって言うんだ。俺は悩んだ挙句、なんでもないような顔で曖昧な返事をした。
「さあ、少し気になったからじゃないか」
「なんですか、それ」
そんな俺の答えに、今度は睨むようにして俺を見た。そしてしばらくして彼女が息を吸って吐いた後、彼女が静かに、呟くように言った。
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