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この一瞬よ、永遠に
「おい、どこまで歩くんだよ」
文句を言いながら、前をどんどん進んでいく黛を追いかける。黛は何も答えない。雪の降る道を進むたび息が切れ、白い息がマフラーから漏れた。
正直失敗した、と思った。あの時、彼女からの誘いを断れば良かったのだ。そうすればこんなに遠出をしなくても、こんなに歩かされなくても済んだというのに。
実は一昨日、彼女から余呉湖に行きたいので一緒に行きましょう、というLINEが来た。大学の受験勉強に飽きた俺は、それに快く返事をしてしまったのだ。
大体、写真一枚撮るためだけになぜここまでするのかと腹の中で彼女に文句を言う。東京から滋賀まで行くだなんて聞いていない。
物言いたげな視線を俺が投げつけても、彼女はそんなことは気にもとめずただ真っ直ぐ歩いていた。
「着きましたよ、先輩」
そう言って、彼女は足を止めた。やっとか、と思いながら顔を上げると、そこにあったのは広大な湖だった。真冬のためか、水面は凍っている。
「これが、余呉湖」
そう言って彼女は眼鏡の奥の瞳を輝かせた。普段あまり感情を表に出さない彼女が少し興奮していたのが分かった。
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