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順調に過去に戻った聡介は、由香が事故に遭った日の前日にいた。前回と同じく、彼女から電話がかかってきた。
「話したいことがあるの」
何日かぶりの彼女の声。彼女が、元気に生きている。もう二度と聞けなかったかもしれない声。
「明日、三時にいつものカフェに来て」
あの日と同じ待ち合わせの時間と場所だ。このままでは、彼女が来ることはない。
「待って。駅前のカフェにしよう」
僕が提案すると、彼女は少しの間黙った。
「うーん、いいわ。三時に、駅前のカフェね」
電話越しでも、彼女の暗い雰囲気が伝わってくる。伝えたいことというのは、僕にとってあまりいいことではないのだろうか。それでも、彼女が事故に遭ってしまうよりはよっぽどいい。電話を終えても、僕の心臓はバクバクとしていた。
翌日、僕は念には念を入れて、朝のうちに待ち合わせの場所と時間をメールしておいた。今度こそ彼女は来てくれるだろうか。
僕の考えは杞憂だったようで、約束の時間、駅前のカフェに彼女はいた。
彼女の耳元で何かが光った。それは、僕が初めて由香に贈ったイヤリングだった。
「聡介……」
昨日の彼女の様子とは打って変わって、彼女は幸せそうな笑みをたたえた。
「来てくれて、ありがとう」
聡介自身も、安堵で笑みがこぼれる。
「それで、由香、話したいことって?」
席について早々に、聡介は口にした。由香は少し照れたように笑顔をみせる。
「なんでもないわ。結婚することに、すこし不安になっていたのだけれど……。大丈夫みたい。聡介、だいすきよ」
あれだけ構えていた手前、聡介は拍子抜けしてしまったが、嬉しそうな彼女を前にし、やっぱり戻ってきてよかったのだと感じた。
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