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拾って渡そうと思い勢いよく立ち上がった僕は瞬時にしまった……と体を固める。
と同時に自分の周りから鉛筆やスケッチブック、果てには口が開いたサコッシュから財布やら何やらが音を立てながら飛び出した。
視線の先に居た彼女がバッとこちらを振り返る。
目が合った。
早鐘のように鳴る鼓動は、彼女がこちらへ近づくごとに早くなっていく。
「大丈夫ですか?」
彼女は僕との間に落ちていたスケッチブックを拾い、土を払いながら僕に話しかけた。
突然のことに驚き、急いで返事しようとしたら
「へぁっ」
と変な声しか出てこなかった。
緊張と恥ずかしさで顔がみるみると赤くなるのを感じる。
暗くなり顔色が鮮明には分からないのが何よりの救いだった。
モタモタしているうちに散らばった荷物が全て僕の手元に戻って来た。
僕は変な声にならないよう慎重に
「ありがとうございます。た、助かりました」
震える精一杯の感謝の言葉を聞いた彼女が少し微笑みながら、
「絵、描かれるんですね。」
と一言。
「ええ、まあ……」
「拾ったときに見えたんですが、お上手ですね。つい見入っちゃいました」
続けて、絵を鑑賞するのが好きだとか言っていたが、自分の鼓動で聞こえない。
だが、絵を褒めてくれたのはしっかりと聞こえた。
かなり嬉しい、にやけてしまいそうだ。
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