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小さくなっていく彼女の後ろ姿を片付けをしているフリをしながら見送っていると、ふと彼女の落とした栞のことを思い出した。
栞は依然としてまだ元の位置にあり、持ち主に忘れ去られているのを嘆いているかのようだった。
それを丁寧につまみ土を払いながら自分の荷物をそっちのけに、そう遠くない彼女の背中を追いかけて走り出す。
この様子が、また明日も遊べるのにおもちゃを手放したがらない子供のように思えて何だか滑稽だった。
でも今はそう表すのが適切なくらいに彼女と別れ難い気持ちが強かった。
スケッチなんてすぐに描き終わってしまう。
そうなったら僕と彼女はどうなるのだろう。
僕にこんな気持ちを教えてくれた彼女と少しでも長く一緒に居たいと、短い時間で色々なことを思い浮かべる。
センチな気分になる季節にこんなことを考えると何故だか自然と涙が出てくる。
これはドライアイのせいにした。
ところが彼女まであと数歩の所に来ると今までの感傷的な気持ちが全て嘘であったように吹き飛ぶ。
そもそも知り合いとか友達とかになったわけでもないのにウジウジ考えていてもしょうがないだろう、と自分に一喝する。
どうやら素直に生きると決めていた僕は今は雲隠れの様だ。
素直に生きるのも案外楽じゃない、そう考えつつ栞を握り直す。
乱れた息を整えながら深呼吸する。
淡い期待を胸に、少年のような青年はガラス玉のようにキラキラと輝く目を開け前を向く。
心は初めての色で塗り尽くされていた。
ふと思う。
彼女との距離はいくつなのだろう。
まずは お友達から はじめまして。
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