一人の画家

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 平日の昼下がり、緑があふれる公園で三人ほど座れるベンチの端に座り日向ぼっこをする。 同じようなベンチが等間隔で横一列に四つ並んでいる。  僕以外にはスポーツウェアを着たおじいさんが汗ばんだ顔で息を切らしながら座っている。  日にちと時間のこともあり公園内に人は少なく、トランペットを練習する音だけがのびやかに聞こえてくる。  ここに来ると大抵トランペットの音に遭遇するが、音楽に関する知識とセンスを併せ持っていない僕にとってはこれが上手なのか下手なのかが分からない。 しかし聞いていて不快感は全く無く、むしろ心地良いので、最近は僕の中で日向ぼっこのBGMとなっている。 このBGMを聴きながら公園の特等席でうつらうつらするのが最早習慣となっているのだ。  そう、最近は頻繁にここに来ている。 同じ時間にここを通る人や、散歩で往復している人達に怪しい目で見られることが少なくない。   確かに平日の昼間に二十と少しの青年が公園のベンチ(日当たり良好)でトランペットの音色を楽しみながら長時間座っていたら、人はあらぬことを想像するだろう。  だが、ここに断っておく。 決して職についていないわけではない。  これでも画家として作品を世に送り出している。 百年に一度の逸材とまでは言われないが、独特の感性だ、とか、奇才だ、とかは言われる。 生活が十二分に出来るほどの収入だってある。  今のところ不自由は無い。
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