一人の画家

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 ここまで語っておきながら何もアイディアが浮かばないようでは話にならない。 しかし、腕が鈍るのも困りものなので、デッサンだけでもして、今日はもう帰ってしまおう。  サコッシュから常に持ち歩いている小さめなスケッチブックと鉛筆を探り当て引っ張り出す。 空白のページを探しながら今までに描いてきた自分の絵を見返す。  部屋から見た夜から目覚めたばかりの街並み、澄みゆく海岸、森の中のビオトープ、活気が溢れ人で賑わう朝市…… どれも大気の振動、人の息遣いを感じさせられたときに描いたものだ。  心惹かれる景色を紙に写し取るとき、ただ見ただけでは感じ取れない本質が姿を現わすのでスケッチは好きなのだ。 お気に入りとなったこの公園も、僕のコレクションに加えようではないか。  気に入る構図を探してふと横を見たときに、スポーツウェアのおじいさんがもう居らず、おじいさんが座っていたベンチのもう一隣に女性が座っていることに初めて気が付いた。
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