一人の画家

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 女性の服装は秋へと傾き始めたこの公園に溶け込むような大人しめなものだった。 彼女自身の髪により顔はよく見えないが、手元で文庫本を開いているのは分かる。  風景を見ているフリをしながら少し様子を見る。と、手元の本のページが次から次へと緩急の差をつけながらめくられていく。 もしや速読の得意な文学少女か?などと何を読んでいるのか勝手に想像しながら眺めていたが、その想像はいともたやすく崩れ去る。 彼女は寝ていたのだ。  風で靡いた髪の隙間から、それはもう気持ち良さそうに眠っている幸せな顔を覗かせている。 確かによく見ると首の角度が少しおかしい。  今日は暖かい気候に加え、絹で撫でられていると錯覚するようなそよ風が吹いている。 殊にこのベンチ(日当たり良好)だ。 一度座ってしまえば惰眠を貪りたくなるであろう。  きっと今は夢の中で、ふわふわした毛の愛くるしい動物たちに囲まれながらホクホクの焼き芋でも食べているのだろう。僕がそうだったように。 彼女への空想を余所にスケッチへ取りかかる。  少し残念だったのは、気に入った構図に先の彼女が入り込んでいることだ。 だが彼女抜きで描いてしまうと中々に殺風景になってしまうため、彼女を多少美化して描くことに決めた。
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