61人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
2 糸の端
ベッドの中で大きく伸びをした大祐は、いつもはウダウダと
離れがたい温もりを、この朝はあっさりと捨てた。
望むと望まざると、ちゃんと巡ってきた月曜の朝。
しかし、いつも通り目覚ましに叩き起こされたにも関わらず、
今朝はすごく寝覚めが良い。
昨日の日曜日。
スマホを失くしたことに気付いたのは、サイクリングから自宅近くの
コンビニまで戻って来てからのこと。
しかもこの日は、穏やかな小春日和に誘われるまま、なんとなく距離を
伸ばしてしまっていただけに、その現実への焦りは半端なかった。
そのせいだろう。
慌てて近くの公衆電話から自分の電話に連絡をした時に、なぜか番号を一つ
だけ間違ってしまった。
もちろん、自分が間抜けな間違い電話をしたと分かった時は、別の意味で
ものすごく焦った。
だが、その電話を切った足で警察に届けを出している最中に、なんとスマホを拾ったというカップルが、まさに彼の電話を届けに来てくれた。
人間、泣きたくなるほど困っている時に助けてくれた人は、神や仏に見えるというのも嘘ではない。
とにかく有難くて、嬉しくて、何度も頭を下げてお礼を繰り返し、
最後は手にしていた買ったばかりのエクレアを差し出して苦笑を返された。
最初のコメントを投稿しよう!