1章

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何で今まで忘れていたんだろう。大切な人の死を。薄情にも程があるだろう。凛月は自嘲するように笑った。 『大丈夫?』 夏生が心配そうに顔をのぞき込んだ。 (この人はこんな時でも優しいんだな、、、) 頷いて凛月は医師の話に耳を傾けた。 どうやら姉の事を忘れていたのも記憶が少し混乱しているかららしい。 『やっぱり記憶も耳もお姉さんの事が原因かな』 少し悲しそうな顔で夏生が聞いてきた。 (姉さんが原因、、、本当に、、、?いや、それ以外に何の理由があるって言うんだ) 凛月は本当にそれが原因なのかと腑に落ちない気持ちもあったが、無理矢理その気持ちを押さえつけなかったことにした。 「多分そうだと思います」 『そっか、そうだね。他に思い当たることも無いしね』 その後も医師の話を聞き、他に異常は無く明日にでも帰れるという事だった。 ただ、今の凛月に身寄りは無く残されたのは姉と2人で住んでいた小さなアパートだった。まだ高校二年生で、今では耳が聞こえなくなってしまった凛月が1人で住めるとは思えなかった。 それは夏生も同じ考えだったらしく、、、 『凛月君、これからどうするの?』 その問に凛月は答えられなかった。両親は凛月が物心ついた時から不仲で父は毎夜他の女の所へ行き、母もそれをいい事に家に他の男を連れ込む有様だった。 ようやく離婚するとなった時、凛月と姉がどれほど嬉しかったことか。 離婚後姉は凛月を連れてアパートへ移った。その時姉は高校二年生、凛月は小学校三年生だった。 姉はバイトをしながら月に少しだけ送られてくる父からの仕送りで凛月を育てた。 だから、姉に婚約者が出来たと聞いた時凛月はとても嬉しかった。 (姉さん、、、) 凛月が感傷に浸っていると、夏生は心配そうに顔を見ながら、、、 『大丈夫?あの、もし良かったらこれから俺と一緒に暮らさない?』 と、言った。
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