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舞浜が近づくにつれて、カラフルなねずみが増えてきた。この駅の改札口の向こうで、樹君が待っている。みんな同じような格好をして、同じものを見て目を輝かせている。私もみんなに混ざって同じような表情を浮かべようとしてみたのに、上手く行かない。焦る気持ちが頬の筋肉をこわばらせてしまう。まるで、金縛りのよう。
その時。その群れの中の誰かが放ったひとことが、油断していた私の脳に深く突き刺さった。
「こんな日は、どっちかっつうと海だよねー!」
誰が言ったのかわからないまま、ドアが開いて吐き出されるようにして群れが崩れてゆく。少し先を行くゆっきーの耳から、イヤホンが外れた。
「あ」
ゆっきーがそう言って振り返ったけれど、人に押されて立ち止まることが出来なかった。
その瞬間、私のおばあちゃんが暮らす、館山の海が見えた気がした。小さいころに毎年のように訪れていたあの海岸と赤茶色のレンガの駅舎。
おばあちゃんにも、ずいぶん会ってない。向かいの酒屋の、二つ年上の涼ちゃんにも。
『藍!』
怒鳴るように大声で私を呼ぶ、涼ちゃんの声が聞こえた気がした。最後に会った涼ちゃんは、確か、十二歳だったはずだ。
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