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指先の体温 #2
「これ?」
「ああ」
タオルを手渡すと、涼ちゃんは早速Tシャツの襟に押し込んだ。後姿は、若いころのおじさんにそっくりだ。
軽くジャンプしてトラックの荷台に乗り込んだ涼ちゃんに、ガラス戸の向こうから出てきた若い女性が声をかけている。その女性は涼ちゃんのお母さんではなく、後ろで髪をひとつにまとめたポニーテール姿のふっくらとした丸顔の女性だった。恵奈さん、だろうか。
箒と塵取りを持った恵奈さんに絡みつくようにして、小さな女の子も出てきた。四歳くらいだろうか。確か、連れ子は涼ちゃんと歳の変わらない男の子だって言っていたから、もしかすると、その後に生まれた、涼ちゃんの腹違いの妹ってやつなのかもしれない。この小さな彼女が、こじれている原因なのだろうか。
荷台を片付けて、ビールケースを積んで。涼ちゃんは、みるみるうちに汗だくになっていった。
汗を肩で器用に拭いながら、黙々と積んでゆく。
それが終わると、運転席に乗り込んだ。
走り始めようとした涼ちゃんに、恵那さんが書類のようなものを手渡している。伝票だろうか。二、三度頷いて、恵那さんが手を振ると、トラックはスピードを上げた。
涼ちゃんの車が見えなくなったころ、奥からおじさんが出てきた。その歩き方に違和感を覚えた。
「二年前に脳こうそくで倒れてね、ちょっと麻痺が残っちゃったのよ。和之くん」
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