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目新しい事ばかりの女子中時代から、そのまま高校に上がって、同じ仲間と慣れあって、人がうらやむような恋人が出来て、順風満帆になりうる準備は充分整ったのに、穴だらけの帆は風をはらんでくれない。繕えばきっとどうにかなったのに。できなかったんじゃない。私はそれをしなかった。
「迷うって……大事だよ」
そう言って最中のバニラアイスを手渡してくれた彼の手はずんぐりとしていて、タイピング、めっちゃ速そう。
「ありがとう……」
そう言えば私。彼の名前、聞いてない。
「あの、名前……?」
「ああ。北斗。倉田北斗」
北斗君は、アイスのパッケージを大胆に破いてさっさと口に放り込んでいく。
「涼ちゃんの……その……」
「弟。義理のね。似てないでしょ、全然」
うんとも、いいえとも言いづらい。唇にくっつく最中をはがしながら曖昧に頷く私。そもそも、炎天下に最中のアイスって、どうなの。普通、氷でしょ。けれど北斗君はもうすでに平らげてしまっていて、頬を膨らましながら言った。
「……あのさ、藍ちゃんは悦子さんのところに泊まるんだよね?じゃ、涼平は?こっちで寝てるの?」
「えっと、昨日はおばあちゃんの家の一階で寝てたよ」
「そうなの?え?嫌じゃない?」
「どうして?」
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