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空のケースを下ろし始めた涼ちゃんにまとわりつく私に、北斗君が店の奥から出て来て近づいて来る。
「どこに行きたいの?」
涼ちゃんは北斗君をトラックの荷台から一瞥しても、彼に話しかけようとしない。北斗君も涼ちゃんの事を見ようとしない。ふたりの間だけ、空気が違う。
「……うん。着替え、持ってこないで来ちゃったから、洋服買いに行きたくて」
「僕が車出そうか?」
首のタオルを口にあてて汗を拭いていた涼ちゃんが少しだけ顔をあげる。
「……いいじゃん、送ってもらえよ」
「涼ちゃん!」
「忙しいんだよ、俺は。暇じゃねえんだよ」
最後のひとことは、明らかに北斗君を意識しているように感じた。
「別に、暇だから送るって言ってるわけじゃないんですけど」
またか、という顔をして、北斗君がため息交じりに言う。
「なんでも良いじゃねえか、行きたいって言ってるやつが行けば良いんだよ」
「行きたいって言ってるわけじゃないです。ただ藍ちゃんがいつまでも制服のままじゃ……」
「何にも持たずにこんなとこに来る奴が悪いんだよ」
「どうしてそう突っかかったような言い方しか出来ないんですかね」
「別に突っかかってねえし。行きたきゃ行けよ、勝手にしろよ」
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